「指つながんねえぞゴルア!」慰謝料3400万、賠償請求訴訟の顛末
もう2年以上前のエピソードなんですが、
記録として個人的に残しておきたいのでアップします。
こんな報道がありました。
指変形で県立六日町病院提訴 -新潟日報2008年1月4日-
南魚沼市の県立六日町病院で左手中指と薬指の接合手術を受けた際、同病院の医師が不当な治療を行ったため、患部が変形したなどとして、同市の会社員男性(46)が4日までに、県を相手取り、慰謝料3400万円の損害賠償を求める訴訟を地裁長岡支部に起こした。
訴状によると、男性は2006年10月24日、同市の会社で勤務中、ゴム研磨機のカバーで左手の中指と薬指を切断する事故にあった。同病院で両指の接合手術を受けたが、薬指が手術後、赤黒く変色し、指先が半分程度につぶれた。また、中指もその後のワイヤー除去手術で、医師が患部を極度に圧迫するなどしたため、指先の感覚がまひした。
訴えに対して県病院局業務課は「弁護士とよく相談して対応していきたい」と話している。
当時、この記事を見つけてスイッチ入っちゃった私は、某SNSでトピックを立てて、こんな意見を書きました。
私は整形外科、専門は手の外科です。今まで再接着もかなりの数やってます。
今までこんな訴訟、聞いたことありません。そもそも切断指の再接着は「ダメでもともと、つながったらラッキー」です。挫滅が軽度で手の外科医が生着する可能性が高いと見込んで手術したとしても「つながらなかったら賠償責任が生じる」などということは断じて“ない”。ましてや「不当な手術で指がつぶれた」などと責められる筋合いのものではない。万が一これで、県が金払って和解するなら、訴訟になって原告が勝訴するなら…90%生着させる自信があっても今後はすべて断端形成しましょうか。そしたら今度は…「つながる可能性があったのにつながなかった。」と訴えられるんでしょうか?
産科医療の刑事・民事訴訟、救急医療の刑事・民事訴訟、どんどん「とんでも度」がエスカレートしています。「太い糸のガス壊疽→下肢切断」のように最高裁決定が出てしまったものも捨て置けない。しかし、このケースのようにこれから裁判になるものはなおさら「とんでも裁判」が「とんでも判決」にならないように、見守るだけでなく、なんとかしなければ、と思います。
そして新聞社には、上の文章と、それに続けて以下の文を追加してメールを送りました。
新潟日報に限らずですが新聞社の方々にお願いしたいのは提訴の報道、その第一報に関してです。「訴状によると」という報道は原告の一方的訴えでしかありません。しかし読者は文脈から「事実」として捉えがちです。新聞という媒体、活字は強いのです。読んだ側は「落とした指はつながるのが当たり前なんだ。つないで失敗したら3400万もらえるのか…。」と勘違いしかねません。どうか、読み手も中立のスタンスでいられるような書き方をしていただけないでしょうか?このままでは医療崩壊、医師の立ち去りはどんどん加速します。今回の訴訟、これひとつだけでも南魚沼地区の整形外科医療を粉微塵に吹き飛ばす火力を持っています。どうか医療崩壊の火に油を注がないでください。むしろ医療の現状を伝える、住民が地域医療を守っていかなければ、と発信していただけないでしょうか。
新聞社からは返信をいただきました。私が出したメールへの回答の趣旨は『提訴記事の書き方は、「訴状によると‥」の書き出しで、以前から統一されています。事の適否は裁判所が決め、その結果も判決が出た段階で報道されていますが、ご指摘は、報道部へきちっと伝えさせていただきます。』というような内容でした。
…そして2年と4ヶ月。
つい先月。4月15~17日の日程で日本手の外科学会の学術総会に行ってきたんですが、その学会場で、この訴訟、この事例の指の再接着手術を執刀した先生とお話しする機会がありました。そのとき、手短にですがこの訴訟の顛末をお聞きしました。
結審したのはけっこう最近みたいです。地裁で被告側の全面勝訴。原告は控訴をせず(できず?)、この裁判は終わったとのことです。心から「お疲れ様でした。」と申し上げました。本当によかった…。
で…2年4ヶ月前の新聞社からのメール返信を思い返します。判決が出た段階で、その結果を伝える報道はされたんでしょうか?大野病院事件や大淀病院事件のように社会問題にまで発展した裁判は判決結果までしっかり報道されましたが、このケース、少なくとも私がネットで検索した限りでは提訴されたときの記事しかヒットしません。この裁判の判決結果を外に向けて伝えるソースは…もしかしたらここだけだったりして?
たまたま私は当事者の先生から聞くことができたから顛末を知り得たけど…。「提訴」を報道したマスコミには、それ以上に「判決」をしっかり報道する義務があると思う。訴状より判決のほうが圧倒的に“真実”ですよね。報道・マスコミの大義、存在意義は「真実を伝えること」なんじゃないでしょうか。
2ちゃんねるスレのまとめ 県立六日町病院、切断指
http://blog.livedoor.jp/dont_panic/archives/450253.html
もひとつ2ちゃんねる 「指つながんねえぞゴルア!」…3400万賠償請求
http://society6.2ch.net/test/read.cgi/hosp/1199796096/
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コメント
>報道・マスコミの大義、存在意義は「真実を伝えること」
>なんじゃないでしょうか。
少なくとも、提訴段階で報道したのなら、判決は書かなきゃいけない。
でも、この訴訟、当該医師は提訴せず、管理責任を負うということで県だけを提訴したんですかね。記事でもそうなっているし。
だから、控訴せず(有責性を認めて保険で支払い)になったということなのか。
投稿: ママサン | 2010年5月13日 (木) 10時10分
判決確定、よかったですね。
そして、ブログに書いてくださってありがとうございます。
センセーショナルな起訴について、
マスコミは競って報道しますが、よほど有名な事件以外、
結果報道はなされないことが多く、
世間の多くが知らずに終わってしまうのは残念です。
つよぽん先生のように、内部事情を知る方たちの声が、
もっとマスコミに届きますように。
投稿: 蝸牛 | 2010年5月13日 (木) 10時15分
こういう「かわいそうな患者さん」が敗訴したという報道は、
マスコミは決してしませんよね…
つよぽん先生、GJです。
投稿: うろうろドクター | 2010年5月13日 (木) 16時38分
>こういう「かわいそうな患者さん」が敗訴したという報道は、
これは「かわいそうな医師と病院」の物語です
自称”被害者”が他称”加害者”に及ぼす被害は、いつもマスメディアが煽っている構図ですので、これに言及することは、自己矛盾を来すことでしょう
勝訴した病院は、勝った訴状(実名入り)を病院に掲示して、自称”被害者”の起こした行動を厳しく指弾するべきでしょう
投稿: Med_Law | 2010年5月13日 (木) 23時19分
>ママサン
>少なくとも、提訴段階で報道したのなら、判決は書かなきゃいけない。
ですよね。
で…私がネットで検索をかけただけなので
もしかしたら報道されたけど私が見つけられなかったって
可能性もゼロではありません。
判決の段階で報道されたかどうか、取材があったかどうか、
当事者の先生にメールして聞いてみますね。
で、ご指摘通り、医師個人ではなく提訴されたのは県ですが…
>控訴せず(有責性を認めて保険で支払い)になったということなのか。
ん?県(被告側)の完全勝訴でしたが…。
投稿: つよぽん | 2010年5月14日 (金) 15時16分
>蝸牛さん
やっぱり判決の結果報道はなされないことが多いのかなぁ。
ママサンの書いてくれたとおり、
提訴を報道したからには、判決を伝える義務があると思う。
理想を言えば、伝えるために使う紙面の大きさも、
同等以上でなければならないと思います。
投稿: つよぽん | 2010年5月14日 (金) 15時21分
>うろうろドクターさん
このケース、もしも患者側の勝訴だったら報道されたのかな?
「きれいにつながらなかった指に3400万円の賠償を認める判決」
みたいな見出しで…?
投稿: つよぽん | 2010年5月14日 (金) 15時24分
>Med_Lawさん
過失を問えるはずがないと自明なこの裁判にかけた期間や労力、
病院やこの手術の執刀医師が被った被害は大きいです。
このケースはあまりにもひどい言いがかりのような訴訟です。
こういうのは“勝訴”で終わっても、なんかしっくりこないですね。
投稿: つよぽん | 2010年5月14日 (金) 16時32分
初めまして。
>だから、控訴せず(有責性を認めて保険で支払い)になったということなのか。
ママサンという人のこのコメント・・・どこをどう読めばそうなるんですかね?
本文に「地裁で被告側の全面勝訴。原告は控訴をせず(できず?)、この裁判は終わったとのことです。」とあるのに。
せめて、本人がコメントの訂正をすべきでしょう。
投稿: 憲太 | 2010年5月16日 (日) 10時04分
今、魚沼地区では、基幹病院を作ろう!!って
事で盛り上がっています。
なんだか水をさされる話題ですね。
医師がいない事が一番の懸案事項なのに・・・。
なおさら集まってもらえなくなりそうで心配です。
もっと地域医療を愛護的に報道してもらいたいですよね。
投稿: 高校が六日町高校でした。 | 2010年5月16日 (日) 21時41分
近い地域の事ですが、私の周りで知っていた人はいませんでした。
この件に限らず、いろんな事件を報道によって知りえますが、「その後どうなったのだろう」という事が多い気がしますね。
投稿: まりん@Apple Company | 2010年5月18日 (火) 06時25分
また訴えられましたね。同じ先生。
土日は、お遊びで病院にいないので有名な先生。
病院のHPに個人ブログも載せている。
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医療過誤と県に損害賠償求める
地裁長岡支部で第1回口頭弁論、県は争う姿勢 県立六日町病院が適切な処置をしなかったため左足を切断せざるをえなかったとして、南魚沼市の男性(77)が県を相手取り、約3千万円の損害賠償を求める訴訟を地裁長岡支部に起こし、17日、第1回口頭弁論が開かれた。県側は請求棄却を求める答弁書を提出し、争う構えを示した。
訴状によると、男性は2009年9月、自宅の屋根から転落して左足を骨折した。県立六日町病院に搬送され治療を受けたが、看護師が何回かガーゼを取り換えただけで、適切な処置をしなかった。その結果、転院先の県立小出病院で左足を切断した。義足のため反射神経が鈍り、車の運転を諦めているとしている。
県病院局は「治療は適切だったと考えている」としている。
投稿: | 2013年7月25日 (木) 12時51分